2020年に民法改正されると前回のコラムでもお伝えしましたが、
実は一部の改正部分については既に施行されているのをご存知でしょうか。
民法改正に関するコラム第2弾は、
2020年の民法改正に先んじて行われた改正の1つである
『自筆証書遺言の方式緩和』についてご紹介していきます。
■これまでの問題点
遺言の方式は主に2種類あります。
「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」です。
証人二人と公証役場に赴き、
公証人の面前で作成しなければならない「公正証書遺言」に比べ、
紙とペンさえあれば、
遺言者が単独で費用もかけずに作成できる
「自筆証書遺言」はその手軽さが最大のメリットです。
しかし、そんな自筆証書遺言にもデメリットがあります。
(1)遺言者本人が全文について手書きで作成しなければならない。
手軽さがメリットの自筆証書遺言の条件として、
遺言者本人が遺言全文について自書する必要があります。
代筆も認められないため、
所有財産が多い人や、
遺言を残しておこうという意識が高まる高齢者にとって、
全文を自らの力で書かなければいけない遺言を
残すことへのハードルは高くなりがちです。
(2)登記手続きの前提に検認手続が必要
自筆証書遺言を用いて登記手続きを行うためには、
遺言者の死後に家庭裁判所で検認という手続きをする必要があります。
検認とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせ、
遺言書の形状や加除訂正の状態、日付、署名など、
検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、
遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。
しかし、検認手続も確実に偽造や変造を防止できるとは言えません。
なぜなら検認手続は遺言者の死後に行われる手続ですので、
封をする前の遺言書を発見した相続人が、
遺言書に勝手に加筆してしまうなど、
遺言者の生前に改ざんされるリスクは防げないからです。
また検認手続は、未開封の遺言書を相続人が家庭裁判所へ持参し、
相続人の立会いの下で遺言書の入った封筒を開封する必要があるため、
裁判所に赴く手間がかかるというのもデメリットの1つと言えるでしょう。
(3)遺族に処分されてしまうリスクがある。
自筆証書遺言は自宅で保管するケースが多いため、
遺言者の死後に、
自分にとって都合の悪い内容の遺言を残された遺族が
発見してしまった場合、隠してしまったり、
勝手に処分されてしまうリスクがあります。
結局、遺言が残されないことによって相続人同士の争いが避けられず、
遺産分割協議がまとまらずに
不動産の流通が滞ってしまいがちなのが現状です。
■改正法 改正点及び施行時期
このような現状を打破して遺言を残しやすくするため、
2019年1月13日に自筆証書遺言の方式が緩和されました。
そして2020年には新たな改正部分が施行されます。
(1)相続財産の目録部分については、自書しなくてもよい
今までは全て自書を求められていたのに対して、
2019年1月に施行された自筆証書遺言の方式緩和では、
相続財産の目録部分について自書する必要はなく、
PCでの入力や登記事項証明書、
通帳の写しなどを添付することで代用することが可能となりました。
間違えやすい不動産の表記や口座番号などを自書する必要がなくなり、
負担が軽減されたことによって、
遺言を残すことへのハードルは下げられたと言えるでしょう。
(2)法務局で遺言を保管してくれる制度の誕生
2020年7月10日より施行される制度として、
法務局で自筆証書遺言の保管ができるようになります。
自筆証書遺言が遺族に隠されてしまったり
処分されてしまうリスクについてご紹介しましたが、
法務局に保管しておけばその心配がなく、
より遺言者の意思を反映した相続が目指せるでしょう。
また、遺言者の死後に行われる検認と比べ、
法務局に保管した時点での内容が記録されることや、
遺言書が直接、法務局に遺言書を持参しなければ保管手続きができない
ことで、改ざんのリスクを少なくすることが可能です。
さらにこの制度は、法務局が保管をしてくれるというだけではありません。
法務局に提出する際、
遺言がきちんと様式に沿ったものとなっているかを
チェックしてくれるため、
通常必要となる裁判所での検認手続きが不要となり、
手間が省けるというメリットがあります。
■注意点
(1)遺言本文は自書が必要
自書しなくて良いとされたのは「相続財産の目録部分のみ」であり、
遺言の本文については今まで同様自書することが必須です。
また、PCで作成したり資料を添付した
目録部分の全ページに遺言者の署名捺印が必要という要件があります。
(2)遺言の効力についての判断はされない。
また、裁判所での検認手続き同様、
法務局でのチェックはあくまでその遺言が定められた様式に
沿って作成されたものであるかを確認するものであり、
内容の真偽や、その遺言が有効か無効か、などの判断は行われません。
そのため、法務局でのチェックを通過した遺言であっても、
実際に使用する場面になって
無効な遺言だと判明するリスクは考えられます。
そのため取引の現場において、
売主が自筆証書遺言で相続をしている状況が発生した場合、
その遺言の有効性については事前に専門家の判断を
仰いでおいたほうがいいかもしれません。
■まとめ
負担が軽減されたことにより、
遺言を残そうと考える人の増加が予想されますので、
親族同士での相続争いが減少し、
不動産の流通がスムーズになることが期待されます。
しかしながら、遺言の有効性についての保証はないため、
せっかく書かれた遺言が無効となってしまうリスクは避けられません。
遺言の有効性の判断については、
専門家に相談することをお勧めいたします。
実際の遺言の書き方や法務局での
遺言保管制度に関する質問を受けた際には、
ぜひ弊所までご相談ください。
※なお、当記事の記載情報において、可能な限り正確な情報を掲載するよう努めていますが、情報が古くなったりすることもあり、必ずしも正確性を保証するものではありません。掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。
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